事業団の発掘と整理
調査研究員のイチ推し

14 上栗須寺前遺跡出土の「富本銭(ふほんせん)」

古代(683年頃) 上栗須寺前遺跡(藤岡市上栗須)

松村和男
富本銭(藤岡市上栗須寺前遺跡出土)
富本銭(平城京跡出土) 提供奈良文化財研究所
 私のイチ推しは群馬県藤岡市上栗須寺前遺跡出土の「富本銭」です。少し前までは日本初の貨幣は「和同開珎」(和銅元年 708年)でしたが、今は「富本銭」となりました。「富本銭」は、表面には、上に「富」下に「夲」、左右には七曜星の文様があり、江戸時代には厭勝銭(ようしょうせん:まじない銭)とされていました。「富本」の文字は、唐代の「富民之本在於食貨」(民を富ませる本は食と貨幣に在り)という故事に由来すると考えられます。1999年(平成11年)1月、飛鳥京跡の飛鳥池工房遺跡から和同開珎出土層の下層から多量の富本銭が発見され、メディアで「最古の貨幣発見」、「歴史教科書の書き換え必至か」などと大々的に報道されました。本品は周りが傷んでいますが、「富本」の文字は判読可能で、長野県に次いで近畿圏外で2番目の発見となりました。都から遠く離れた本県でも「富本銭」が発見され、都との繋がりを考える上で重要な位置を占めていたということが伺えます。是非、県内出土の和同開珎を始めとする皇朝十二銭(本朝十二銭)も一緒に御覧いただければと思います。

【群馬県埋蔵文化財調査センター発掘情報館 収蔵展示室】