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唐堀(からほり)遺跡

令和4年7月
水場遺構から発見された彫刻のある木柱

 現在開催中の令和4年度最新情報展・第1期展示『唐堀遺跡から見えてきた山あいの縄文人』(令和4年5月22日から9月4日まで)では、唐堀遺跡から出土した彫刻のある木柱をはじめ縄文時代後期から晩期の土器や石器、遮光器土偶、耳飾りなど豊富な遺物を展示しています。ここでは展示中の彫刻のある木柱について紹介します(写真1)。

① 概要
 唐堀遺跡は、群馬県吾妻郡東吾妻町に所在します。標高は約400m、周囲を標高1000mほどの山々が取り囲む吾妻川中流域の山あいの地形のなかに立地しています。上信自動車道の建設に伴って平成27年から30年まで発掘し、縄文時代の水場遺構や遮光器土偶の発見が話題となりました。その後、整理作業を行い令和4年3月に成果をまとめた調査報告書を刊行しました。
 唐堀遺跡は、約4100年~2500年前の縄文時代後期から晩期に営まれた遺跡で、その中心は約3400年から3150年前頃にトチノミのアク抜きに利用された水場遺構です。彫刻のある木柱は、この水場遺構から完形の状態で出土しました。
 唐堀遺跡の彫刻のある木柱は、縄文時代における彫刻木製品としては群馬県で初めてで、全国でも石川県真脇(まわき)遺跡、岩手県萪内(しだない)遺跡に次ぐ3例目の発見になりました。
 樹種はクリ、全長153㎝、最大幅36cmの大型の木柱で、不思議な文様が彫刻されていました。形や大きさ、彫刻文様からみて実用品ではなく象徴的な道具として利用された可能性が高いと考えられます。年代測定により縄文時代後期の終わり頃の約3240年前に製作されたことがわかりました。

② 彫刻文様の特徴
 クリの丸木を素材にして角柱状に4面加工し、その1面に連続U字形文様が彫刻(陽刻)されています(写真2)。彫刻部分は長さ87cm、幅23cmで、陽刻によってU字形文様は立体的に浮かび上がり陰影が強調されています。ほかの3面には彫刻はないものの左右の側面はていねいに平坦加工され、磨製石斧で削った痕跡も残っています。
 彫刻面をよく見ると、中心付近に二つのU字形文様が連結した突出部があります(写真3)。この突出部は意図的につくられた彫刻全体の中心点としての目印と考えられ、ここを基点にして同じ形・大きさ・深さ・間隔のU字形文様が左右対称形に彫刻されていることが読み取れます。
 縄文人は、最初からきちんと設計図を描いてU字形文様をデザインし左右対称形を計測してからていねいに彫刻していたことがわかります。彫刻のある木柱は、素材木材の選択、伐採、運搬、デザイン、加工、彫刻、そして完成に至るまで多くの縄文人がかかわり計画的に製作されたと考えられます。

③ 水場遺構に埋納された彫刻のある木柱
 彫刻のある木柱は、水場遺構の石組みの中から周囲を石で覆われ、彫刻面を上にした状態で出土しました(写真4)。また、彫刻面やほかの面にも損傷がないため地表に長期間露出していた可能性は低いといえます。これは、彫刻のある木柱は、水場遺構に廃棄されその後自然作用で少しずつ埋まったのではなく、縄文人が水場遺構に運搬し意図的に彫刻面を天空に向けて短時間のうちに埋めたことを示しており、その背景には彫刻のある木柱を埋めるという、埋納行為を伴う祭祀が水場遺構で行われた可能性があると考えられます。
 また、彫刻のある木柱の上にはトチノミの殻が堆積しており、埋納後も水場遺構でトチノミのアク抜きが行われていたことを物語っています。水場遺構は、約3400年前につくられ、その後約3150前頃に廃絶されるまで200年以上にわたって利用されていました。彫刻のある木柱の埋納は、水場遺構の長い利用期間の一場面のできごとだったのです。

④ 残された謎
 唐堀遺跡で発見された彫刻のある木柱について、発掘や整理作業によってここに述べたようなことがわかりました。しかし、まだいくつもの謎が残されているのも事実です。
 彫刻のある木柱は、どのような目的で製作されたのか、何人の縄文人がかかわりどのような技術で加工されたのか、埋納される以前はどこでどのように利用されていたのか、そもそも立てられたのかそれとも横置きだったのか、なぜ最終的に水場遺構に埋納されたのか、U字形文様にはどんな意味が込められているのか、などこれらの謎を今後は解明していかなければなりません。
 これからも謎解きは続きます。彫刻のある木柱がたどった一生の履歴をていねいに読み解きながら残された謎を一つずつ解明し、縄文人の精神世界を探求する旅へと歩んでいきたいと考えています。

 彫刻のある木柱は、令和4年9月4日まで展示しています。ぜひご覧ください。
1 彫刻のある木柱の展示   
2 彫刻のある木柱の展開写真
3 彫刻のある木柱の陰影図
4 彫刻のある木柱の出土状況